飛べない人

「……チッ。最悪なもの見ちゃったわ。何よあの顔。思い出すだけで寒気がする。」

私はベットに寝そべりながら独りぶつぶつ文句を言っていた。
目を閉じるだけで 紀の顔がはっきりと思い出される。
死ぬっていうのに 凄く嬉しそうな顔だった。
何もかもに開放されたような、晴れ晴れとした顔。

「……気持ち悪。」

私はポツリと呟き そのまま眠りについた。

……ここは 学校？
私が立っていたのは 誰もいない薄暗い教室。
物音一つしない異様な静けさに少し違和感を覚える。

(こんな教室早く出よ。)

私は近くの 教室のドアに手をかけ力を入れた。

「……開かない……？」

私はそう思って 再び手に力を入れる。
どれだけ力を入れても ドアはピクリともしない。

「あぁもう！！なんで開かないのよ！！誰かいないの！？」

イライラがつのる私は大きな声で怒鳴り散らす。
私の声が響き静まり返ったその瞬間。
誰もいないはずの教室から クスクスと不気味な笑い声が聞こえた。
思わず声が聞こえる方を振り向く。
そこには……まるであの時のように楽しそうに笑ってる紀が立っていた。
その姿を見た瞬間。
さっきまでなんともなかった体が異様なまでに冷たくなる。

「あ……ぁ…」

(何であんたがいるの？)
問いかけようとしたけど唇が震えてうまく喋れない。

「ねぇ。ゲームしない？」

……は？
一瞬意味がわからなかった。
何。ゲームって。
紀は相変わらずあの笑顔を保っていて、何を考えてるのか分からない。

「……あ、あんた何言ってんの？ゲームなんていきなり言われても困るんだけど。」

私はあえて強い口調で言ったものの、声は震えたまんま。
紀はそんな私を見透かした様子でまた口を開く。

「ルールは簡単。1週間寝なかったらあなたの勝ち。もし1週間以内に寝てしまったら私の勝ち。たったそれだけよ？」

余裕の口調で言う紀を私は睨みつける。
でもあいつは 笑顔を崩さない。
(何でこんなに余裕なんだよ！ )

「やってやるわよ！そのかわり、あんたが負けたら二度と私の前に現れないで！寒気がすんのよ気持ち悪い！！」

私は勢いに任せて ついやると言ってしまった。
(あ……やばい……)
そう思ったけどもう遅い。

「じゃあ、私が勝ったらあんたには死んでもらうから。」

私の返事を聞いた紀はさっきとは違うもっと不気味な笑みを浮かべる。
そして次の瞬間 視界が一気に白くなり、目が覚めたのだった。