飛べない人
「寝られないのよ。寝たら殺されるの。もうどうしようもないのよ!!」

喋り終わった後、紗綾ちゃんは大きな声で怒鳴った。
私は何も答えることが出来なくて、うつむいてしまう。

「……そんなの、寝れば終わるじゃない。」

焦っている紗綾ちゃんをよそに、桃音ちゃんは淡々とした表情で予想外の言葉を言ってみせた。

「桃音話聞いてた?寝たら死ぬかもしれないのよ?」

さすがの紗綾ちゃんもイラ付きを隠せずに眉間にシワを寄せている。
それでも桃音ちゃんは動じない。

「だって、本当に死ぬかなんて分からないじゃない。」

……確かに。桃音ちゃんの言う通りだ。
本当に死んでしまうかなんて分からないし、所詮。
紗綾ちゃんの夢の中の話。
あまりにも説得力がなさすぎる。
紗綾ちゃんも何も言えず、言葉を詰まらせてしまう。
私は気まずい空気が耐えきれず、勢いに任せ思いつきの言葉を吐き出す。

「不安……なら。私達がついててあげるから、も、もし、紗綾ちゃんがうなされてたら、私達が起こしてあげるって言うのはどうかな……?そしたら、夢から抜け出せて助かるかもしれないでしょ?」

勢いのあまり自分でも考えていなかった事を提案してしまった。
2人はまさか私がそんな事を言うとは思わず、目を見開いている。
(でも、他に解決方なんて……)

「それ、いいわね。」

余計な事を言ってしまったとまたうつむこうとしたその時。
意外な事に紗綾ちゃんが私の意見に賛成してくれた。
私は少し嬉しくてパッと顔をあげる。

「まぁ。やってみる価値はあるわよね。」

桃音ちゃんも私の意見に乗っかる。

「それに明日休みだし。丁度いいじゃない。」

桃音ちゃんの言う通り今日は金曜日で、明日は休み。
こんな機会を逃す理由にはいかないし。
私達は実行する事にしたのだった。
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