飛べない人
授業が始まって数分。
何故か紀ちゃんは教室に居なかった。
サボりだろうか。
一瞬そう思ったけれど、紀ちゃんに限ってそれはない。
紀ちゃんはどれだけイジメられてても 授業にはちゃんと来てたから。

じゃあ、なんで来てないんだろう。
そんな事を考えていると ……ドシャッ。
どこからか鈍い音がした。

「きゃぁぁぁぁあ!!」

その瞬間。大きな悲鳴が教室に響き渡る。

……え?何があったの?

パッと後ろを見ると 弥生ちゃんが立ち上がって窓の外を指さしていた。

「あ……あぁ…………」

凄く動揺しているようだった。

「幸村!授業中に席を立つな!」

先生が怒ってるけど 弥生ちゃんは気にもとめない。
最初は何を言ってるか分からなかったけど、やっと分かった。

「……か、紀ちゃ……落ち……落ちて……」

まさか……!!
私は立ち上がって窓の方に走り寄る。
そして窓の下を除くと……。

「ひっ」

私は思わず小さな悲鳴を漏らしていた。
そこには、残酷な姿で倒れている何かがあった。

変な方向に折れ曲がった足と腕。
花壇にぶつかって潰れている頭。
そこから溢れる大量の血。
私はあまりの衝撃に言葉が出なかった。

コツンッ
震えて動けないままの私の頭に、何かが当たった。
……ウサギの……ぬいぐるみ……?
床に落ちたそのぬいぐるみを拾い上げ、私はパッと落ちてきた方を見上げる。
一瞬。屋上に人影が見えた気がした。
……もしかして……誰かが突き落としたの……?
ふとそんな事を思ったけれど、今の私には深く考えるほどの余裕なんかなくて、私はただ立ち尽くすことしか出来なかった。


さすがに変に思ったのか、先生がかけつけてくる。
そして窓を覗いた瞬間。
先生の顔は真っ青になっていた。

「先生どうしたんですか……?」

生徒達も不思議に思い教室が一気にざわめき始める。

「きゅ、救急車だ!先生は救急車を呼んでくるから、窓の外は絶対見るんじゃないぞ!!」

皆の声に気付き我に返った先生はそう大きな声で言う。
皆は混乱していたけれど、先生の顔を見て異常じゃないと思ったのか 誰も窓を見ることは無かった。
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