名前で呼ばないで
「女の子泣かしちゃダメじゃないですか。喧嘩ですか??」
「ち、違います…」
言って固まった。
王子様だ。
いや、白馬の王子様に見えたのは保険医の白鳥(シラトリ)先生だ。
なんと言うことでしょう。
耳まで赤くなった私は、見とれてしまった。
どう見てもアラフォーの、妙に落ち着いた感のある白鳥先生に、恋をしてしまったようだ。
結婚指輪はしていない。
結婚してるかどうかなんて、聞く勇気もないし、聞いたところでどうすることもない。
去年赴任してきたらしい白鳥先生は、整った顔立ち。背も高くて物腰柔らかく物静かで、大人の魅力を感じた。
ただ見ているだけで、見とれていることが満足だ。
と思っているのは私だけのようで、みんなは矢水だ、何とか先輩だとキャーキャー言ってる。
変わってる、変な子だとは普段から言われてきたが、ここまでとは。
ぶるぶるっと頭を振ると、
「せ、せんせい、さようなら…」
それだけ言って、慌てて靴を履き替え逃げた。