アイアンロストゼウス
時を少し遡る

<アトラス東京都支部・通信司令室>

軍事棟の奥、長い通路を進んだ先にあるのがここ通信司令室。
この施設全域の頭になる場所で、ここから全国にある支部や本部と連携を取り合ったり各ユニットに連絡したりするきわめて重要な場所。

エキドナ「初めまして月神・・・私はここアトラス東京都支部の最高責任者エキドナ・テテュスよ」

くるりとコマのついた高そうな椅子から立ち上がり挨拶をする白銀の髪をした女性が名乗り出る。
ここの中で一番偉い人みたいだ。

破月「・・・初めまして、パイロットの月神破月です。」

愛想良く挨拶をしたエキドナと比べ冷たく返事をする月神。

エキドナ「エウロパから貴女の話は聞いてるは。とても優秀なパイロットだと・・・。
貴女の活躍期待しているわ」

破月「・・・はい」

エキドナ「(本当にこの子がエウロパから聞いてた子なのかしら?思ってたのと全然違う・・・緊張してるのねきっと。)
そんなに畏まらなくても、良いのよ。自然に自然にしててくれれば良いのだから♪」

エキドナの軽いノリにも乗る様子もなく月神は唯真っ直ぐにエキドナを凝視している。
冗談が通じるような人間だとは思えずエキドナはさっさと話を終わらそうと簡単に事業内容を説明し始めた。


これから月神が住む寮の場所や仕事のローテーション、シフト、それから色々施設の案内だったり、搭乗する機体についてだとかだったり・・・。
そんなこんなであっという間に今日が終わろうとしていた。

<ゼウス格納庫>

エキドナ「んでここがゼウスの格納庫よ」

最後にやって来たのがここアトラス東京都支部に配置してる機体が置かれた格納庫だった。

エキドナ「隣が整備室よ。故障したり不具合がおきたゼウスを直ぐに修理するために格納庫と整備室は隣同士に作られてあるの。」

エキドナの説明のもと中に入っていく月神。
大きくて広い空間の中には何機ものゼウスが転倒防止のため壁に寄り掛かるように若干斜めに安置し固定されている。

じろじろと周りを見回していたが痺れを切らし月神はエキドナに尋ねる。

破月「・・・私が乗るゼウスは?」

エキドナ「貴女の乗るゼウスは隣の整備室よ。実は昨日の昼間のメンテナンスの時に電気回路の異常が見付かってまだ調整に時間が掛かるみたいなの。
だから当分の間貴女には待機してもらう事になるのだけど・・・。」

申し訳なさそうに話すエキドナに対して怒る気なんて更々ないが冷たく無言でそのまま奥まで進んでいく。
その時だ・・・。

?『・・・こっち』

破月「―ッ!!」

?『・・・こっち』

破月「Σ!?」

何処からともなく声が聞こえてきて・・・。
耳を澄ます。

声は格納庫の奥から聞こえてきていて・・・。

エキドナ「ちょっと!月神!?月神!?」

破月「Σ!?」

そこで我にかえる。

私は今何を聞いていたの・・・?
と自分を疑う。

エキドナ「大丈夫?少し顔色が悪いわよ・・・?」

破月「・・・ぁ・・・ッ、・・・いえ」

さっきまでのクールさは何処へやら、そんな尋常じゃなかった様子の月神に対してエキドナは心配そうに肩に手を置く。

エキドナ「色んな所案内してたらもうこんな時間ね、今日はここまでにしましょうか。」

破月「・・・ぇ」

エキドナ「イギリスから長旅で疲れたでしょう?続きはまた明日にしましょう。はいこれ貴女の住む寮の場所と部屋番を書いたメモと鍵よ、無くさないように気を付けてね。」

破月「はい、ありがとうございます。」

エキドナ「途中まで送る―・・・ッ」

破月「いえ、一人で大丈夫です。それでは失礼します・・・」

エキドナ「えぇ、・・・部屋に内線一覧表があるから何かあったら連絡してね。」

心配そうにしているエキドナを一人その場に残しそそくさと月神はメモと鍵をポケットに押し込め格納庫を後にした。

<パイロット専用寮>

破月「ここが今日から私が住む場所か・・・」

ここはアトラス東京都支部内にある軍事棟の一角にあるパイロット専用寮。
月神の様な海外から来たものや色んな事情により実家に住まないパイロット達が生活するための寮である。

月神も例外無くここの寮に入ることになったのだ。

アトラス東京都支部軍事最高責任者 兼 イージスクイーンの艦長でもあるエキドナ艦長から渡されたメモを頼りにここまでやっとたどり着いた。

破月「・・・ここか」

中は殺風景そのものだった。
シンプルな白い壁と白い床。
簡単なキッチンと簡易なベット。お風呂はついてるけどトイレと一緒のユニットバス。
何か一見ビジネスホテルみたいだ。
部屋の玄関には段ボールが1つ置いていてそれを担ぎ上げベットの脇まで持ってくる。
この中にはイギリスの家から持ってきた月神の必要最低限の荷物が詰められている。
数こそ少なかれ全部取り出して部屋に飾り付けたりしまったりする事を今からすると考えるととても面倒。
なので明日することにした月神は取り敢えずあれだけ取り出すことにした。

段ボールから取り出されてたの写真立てと1枚の写真だった。
手に取るといとおしげに見つめる。
一頻り眺めた後ベットの脇のランプ棚の上に置いた。
ここなら何時でも眺められるし手が届く距離にあるから安心できる。

破月「・・・よし!風呂にでも入ってさっさと寝るか・・・。」

服を脱ぎ散らかしながらバスルームに向かう。
裸になり湯船に乗り出すとカーテンを閉めてシャワーの蛇口を捻る。

破月「・・・?」

キュッ・・・キュッ・・・キュッキュッ・・・ッ!

破月「?」

いくら蛇口を捻ろうともお湯所か水さえ出てこない。

まさかの予想外の状況に動転する。
何なんだよと渋々バスルームから出て来てどうしたものかと考えていると、エキドナの言葉を思いだし何かを探し始める。
それは直ぐに見つかった。
玄関のインターホンの隣に備え付けられた内線の上に貼り付けられていた。

裸のまま内線を手に取ると何処かに電話をかけ始める月神。

破月「あの・・・シャワーのお湯が出ないんですよ・・・」


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