シルク・コート6番街
「・・いらっしゃい」
閉店間近のバーに、一人客がやってきた。
ぼさぼさの髪に、くたびれたスーツ。
男は一つため息をついて席に座った。
「何にする?」
「任せる。・・適当にカクテルでも作ってくれ」
「はいはい、かしこまりました」
バーテンダーは棚から酒を選んで手際良くシェイカーに入れていく。
シャカシャカと耳に心地よい音が響いた。
「ずいぶん、お疲れみたいだけど・・・何か、あったの?」
「ああ・・ちょっとな」
男は機嫌悪そうに舌打ちをした。
「ま、余計な事は聞かないよ。ゆっくりしていきな」
す、と男の前に透き通った葡萄色のカクテルが差し出される。
それはまるで、バーテンの瞳の色の様だった。
「・・・うまい。コレ、何ていうんだよ」
バーテンは自分の目を指さし、にこりと微笑む。
「【ウォッチング・ユー】俺の、オリジナルだよ」
男は一瞬驚いた様に目を見開き、それからぷす、と吹き出した。
「何だよお前・・もうちょっと付けようがあっただろ、名前ぇ・・・」
ケラケラと笑っていた声にいつしか涙と嗚咽が混じる。
「ったく、泣かせんなよぉ、ばかぁ・・!」
「ふふ、ごめんね坊ちゃん」
カクテルを一気に飲み干し、男はバーテンの方に手を伸ばして引き寄せた。
「・・・フラン、シス」
甘えるようなその仕草に、フランシスと呼ばれた男の目元が緩む。
「なぁに、アーサー」
アーサーと呼んだ男の頭をくしゃりと撫でて、フランシスはその場に留まった。
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