私たちの好きな人


 完全に終わったと思った。
 けれど、何も終わらなかった。
 湊は相変わらずだし、私も湊への思いが変わることは無かった。
 
 ありえないことされているのに、私の思いは変わらないなんて。
 バカだよ。
 自分にほとほと呆れる。
 けど、それはまだ付き合って日が浅いせいかもしれない。
 今はちょうど恋心が昂っているいる時期だから。

 ベッドでゴロゴロしていると電話が鳴った。
 私はめんどくさそうに携帯を探し、そして画面を見るなり笑みがこぼれた。
 ああほらね、ダメだね私。
  
「もしもし……湊?」

「あっ、利那。起きてた?」

「うん……」

 生の湊の声も好きだけれど、電話越しに聞こえる湊のいつもよりテンション高め(に、聞こえる)声も好きだ。
 湊の声を聞きたい私は、極力言葉を控える。
 夢見心地で、相手を待つ。
 
「うーんとさ、明日デートなんだけど、利那も来てくんねーかなって」

「……へっ」

 私はやや遅れて反応した。

「デ……デート……?」

 頭だけでは処理できず、つい口に出してしまった。
 先ほどとは打って変わって私の心は陰り始めた。
 けれども湊はあっさりとしていた。

「うんほら、言ったじゃん、彼女出来たって。一年のトーコちゃん」

「え、え、あ、ああ」

 私はひどくうろたえた。もう泣きそう。
 だめだ。耐えられない。もう聞くしかないね。
 怖いけれど。
 壊したくないけれど。
 私は勇気を振り絞った。
 携帯を握る手に力が入った。
 
「あ、あのさ……」

「ん?そんな声で、どうかしたか?」

 無駄に優しくするな、バカ。
 余計泣きたくなる。

「私のこと、どう思ってるの……?」

 消え入りそうな声だった。
 相手に聞こえたかはわからない。
 最悪の結果に覚悟はできてる。
 身体が小さく震える出す。

「……えっ、何。好きだけど」

 何言ってんの、みたいなあっけらかんな返事に、私もキョトン、となった。
 しかもなんだか私がおかしいみたいな雰囲気。震えが止まる。硬直。
 今日の私は随分と忙しい。

「好きだから付き合ってんじゃん?」

 その言葉に少しの安堵を覚える。 
 えっ、じゃあ……彼女っていうのは?デートっていうのは……?
 何かの間違いかな?と、ほんのわずかに期待を持ち始めた私に次の瞬間、湊はとんでもないことを言い放った。


「……好きだよ。……利那も、トーコも」


 グサリ。
 私の胸に抜けない剣が刺さった。
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