背伸びして、キス


「あのね、彼氏としては、彼女の誕生日をお祝いしたいって思うものなのよ。まぁ、自分から言い辛いし、一条も聞かなかったのも悪いと俺は思うけどね」

「それは、・・・聞くタイミングなかったし。まだ先だと思ってた」

「あ、あの・・・。そうとは知らなくてすみません・・・。でも、本当に、自分でもすっかり忘れてたくらいで。今年は特に入試でバタバタしてたから、気づいたら過ぎてて」

「気づいたらって、祝ってもらったりしなかったの?」




槙原さんの言葉に、私は黙る。
祝ってもらう・・・。
そんな事考えもしなかった。



「・・・小さい頃、おばあちゃんは祝ってくれてました。でも、私の面倒も見てくれてるのに、申し訳ないなって思って、運動会とかを断るのと一緒に誕生日もしなくていいよって」

「・・・」

「だからそれからは、お祝いするって習慣がなくて。私自身も、それでいいって思ってたし。だから、誕生日に思い入れとかなくて・・・。ごめんなさい」

「なんでお前が謝るんだよ」



いろんなことを諦めてきた。
諦めて、それが当たり前になって。

そうして大人になっていった。



今、そのことがすごく辛い。




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