背伸びして、キス


振り返り確認した姿は、やはり彼女のもので。
少し髪が伸びたとか、大人っぽくなっただとかそういうことを除いても、あの頃の雰囲気はそのままだった。




「やっぱり、洋介だ!久しぶり」

「・・・あ、ああ」

「同じ街に住んでて会わないものだね。連絡も全然だし」

「ああ、ごめん・・・」




会うつもりなんてなかった。
会いたく、なかったんだ。




「中覗いてたけど、気になるお店?」

「い、いや、そういうわけじゃ・・・」




彼女がここでバイトしてるんだ――――
その一言が、咄嗟に出てこなかった。


俺は、なにがしたいんだ。




「私もこのレストランちょっと気になってたの。時間あるなら一緒に入ろうよ」

「え、いや、俺は・・・」

「せっかく6年ぶりに会えたんだから、ね。ほら行こう」




断りきれもせず、引かれるままにその店に入った。
どうか、俺の勘違いで休みであってくれ、なんてひどいことを考えながら。




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