背伸びして、キス
「いらっしゃいませ」
無情にも、聞こえてきたのは一華の声で。
別に、やましいことがあるわけじゃない。
そんなんじゃない、違うんだと、きっと今なら言えるはずなのに。
俺は、なにも言えなかった。
一華の俺を見る戸惑いの表情に、俺は困った表情を返すことしか。
席に案内され、向かい合わせに座ると、一華が水とおしぼりを運んでくれた。
本当なら、もっと違ったはずなのに。
違うんだ。
これは、そうじゃない。
誰に対してのいいわけなのか。
俺の中でぐるぐるした想いが気持ち悪く廻ってる。
「ご注文が決まりましたらお伺いします」
そう言って下がった一華は、俺に問い詰めるでもなく、店員としての対応に努めていた。
そんな事をさせてしまっている自分にも、はっきりと言えなかった自分にも、嫌気がさした。