背伸びして、キス


「よし、定時には帰れそうだな。一華を、待たせないようにしないと・・・」



あの日、定時に仕事を終わらせて会社を出る直前。
スマホに着信があった。



『 着信 広美 』



ぴったりと、止まっていたはずの時があの日偶然会った時から動き出してしまったのか。




「もしもし」



躊躇ったけど、結局俺は電話に出てしまった。



――もしもし、洋介っ!?わた、私・・・っ、どうしよう!




電話口の広美はひどく混乱していて。
泣いているのがわかった。

なにか、緊急事態なのだと直感した。



「どうした?なにがあった?」

――みゆが。・・・子どもが!すごい熱なの、どうしよう・・・

「病院には行ったのか?」

――風邪の引き始めには・・・、でも、突然高熱になって・・・すごく苦しそうでっ




広美は、シングルマザーだと言ってた。
頼れる人が近くにいないのか・・・。

俺は、少し悩んで「わかった」そう答えていた。



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