百の魂に幾千の想いを
1.第90個目

1.涙を無くした少女

じりり…と安眠妨害をする目覚ましの音が鳴った。

「…う…るさいっ!」

私は頑張って目覚ましに手を伸ばし、音を止めた。目覚ましが鳴ったということは今の時間は8時10分。

「ふぁあ…」

ガバッとベッドから降りてカーテンを開けると、部屋に日ノ光が降り注いできた。

「よしっ、今日も良い天気」

カーテンはそのままに部屋を出て、階段を下りる。迷わずに和室へと足を向ける。

私には朝、起きたら必ずする事がある。

真新しい和室には仏壇がある。本当は我が家は誰も死んでおらず、位牌などないはずだった。けれど、今はそこにある。

「孝雄」

今はそこに有る位牌の写真に写る孝雄は変わらず笑ってた。

「おはよう」

孝雄に手を合わせて祈ること。
いや、正しくは話しかけるというほうが正しいのかもしれない。

「今日はね、バドミントンをする予定なんだ。だから、晴れてよかったよ」

そうやってしばらく話しかけて、線香に火を灯し、手を合わせた。

孝雄は、私の幼馴染み。
約1年前の春、孝雄は突然亡くなった。
もうすぐ初めての命日が来る。


< 1 / 16 >

この作品をシェア

pagetop