百の魂に幾千の想いを
『桜ならば、あるじゃないですか』

その声と共に白一色の景色が変わる。

一面の淡い桃。私たちの周りは桜木の森が広がっている。上は、青空。雲一つない晴天。

「…や、え…?八重桜?」
「あの精霊の木と一緒だな」
「…凄く綺麗」

桜木は八重桜。
八重の花が咲き乱れ、花びらが風に舞う。
それは気紛れな願い桜さんの仕業。

「志乃」

名前を呼ばれ、振り返れば真剣な目をした孝雄。

「俺は小さい頃から、お前が好きだ」

なんて言えばいいのだろう?
…違う、言うことは簡単。

「…私も…好き。大好き。だから、もうどこにも行かないで」

孝雄は何故か苦笑する。

「俺はいつも傍に居たさ。ただお前が気付かなくて。毎日、毎日…悲しむのを耐えて祈ってくれたことも知ってる」
「…」
「だから、これからも傍に居るよ」


泣きじゃくる私の顔に孝雄の手が伸びてくる。パッと顔を上げさせられた。

「!」

唇に何か押し付けられる。冷たい。
孝雄の顔が至近距離で見える。

「…っ…い、いきなり」

顔が熱い。
きっと真っ赤だ。
不意打ちのキスは驚きが大きい。

「まあ、約束のキスだな」
「!」

にっと笑う孝雄の姿が周りの景色と共に薄くなっていく。

「待って!ねえ…っ!」

手を伸ばせど、私の手は孝雄の身体に触れられなかった。孝雄がふわっと浮かんで、私に再び口付ける。

もう、感覚なんてない。

「―――」

耳元でそっと囁いて孝雄は消えた。

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