百の魂に幾千の想いを
「そういや、もうすぐ孝雄の命日だな。確か明日だっけ」
「うん、そうだよ」
大学の講義前の休み時間。
次の宗教学は、夏川と一緒だ。
夏川は孝雄の親友だった人物であり、私の親戚だ。
「そうか、そうか。早いなー。安倍は強いよな」
「ん」
「ほら、あいつが死んだときに泣かなかっただろ、だから強いなあって」
私は夏川が買ってきてくれたジュースから口を離す。
「…強く…ないよ」
声はいつもの通りのつもり。
だけど、意思に反して震える。
「私は孝雄の死を悲しむ資格はないから」
そう言うと鞄を持って立ち上がる。
夏川は急のことに驚いているだろう。
確認する、そんな余裕なんてなかった。
「志乃!」
ただ、夏川が今は呼ばなくなった私の名前を呼ぶ声だけは聞こえた。
しかし、振り返らずに私は部屋から出た。
そう、私は悲しんではいけない。