百の魂に幾千の想いを

目覚めれば、そこは病院。傍らには両親と妹の姿。3人は泣きじゃくって、「良かった」と繰り返す。

「…た…かおは?」

その名を口にすると、3人は一瞬にして固まった。喜びで溢れていた空気ががらりと変化した。

「ねえ、孝雄は…?」

母は私の手を取って目を伏せた。

「孝雄くんはね、志乃を庇ってくれたのよ」

静かな声。

「信号無視で突っ込んできたトラックがバスに衝突する前にあなたを抱きしめて、庇ってくれたの…」

私は痛む身体を起き上がらせた。

「庇ってどうしたの…」
「衝突のせいで、即死だった」
「嘘…嘘よ…ね」
「志乃が生き残ったのは奇跡よ!孝雄のおかげで助かったの!」
「…嘘だ。孝雄が…孝雄が居なくなるなんて、死んだなんてっ!」

何処?何処に居るの。

廊下に出ると、孝雄の両親が泣いていた。

「おじさん、おばさん!」

駆け寄ると、二人は顔を上げた。

「孝雄は何処ですか…?」

するとおばさんはわっと泣き出し、おじさんの胸に顔を伏せた。おじさんはそんなおばさんを一瞥し、何も言わずに指差した。

ベンチの前にある扉。

私はお礼も言わず、扉を開けた。


「…孝雄?」

ベッドに横たわる身体。
白い布で顔を隠されている。

堪らず、白い布を剥がす。

「…あ…や、やだあああっ!」

白い布の下は、孝雄の顔。
顔にも、手にも、足も…傷と打撲。
衝突の凄まじさを感じる。

心臓の位置に耳を当てる。

何も、聞こえない。

「孝雄―――っ!」

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