百の魂に幾千の想いを

4.彼の者は願い桜

目を瞑っていた私は目を開けた。

「…さく…桜…?」

目の前にあったのは
逞しい枝を四方八方に広げ、
満開の桜花を咲かせた
巨木の桜。

「光ってる…」

そっと桜花に手を伸ばす。
その淡い桃の八重は1つ1つが光っていた。

「綺麗…」

幻想的な風景。

「そんなに面白いですかねえ」

後ろからのんびりとした声が聞こえた。
振り返ったら、人が立っていた。

白衣、小紋入り紫袴。
分かりやすく言えば、宮司さんの格好。
見た目20歳くらいのその男の人は、よく似合っていた。


「だ、誰ですか…」
「私は願い桜」
「願い桜?いや、桜の品種を聞いているんじゃないですけど」

私がそう言うと、男の人は顔を歪めた。

「品種?その両目は、私が植物に見えるんですか」
「い、いえ!」
「ちゃんと人に見えます」
「残念。私はこの八重桜に宿る精霊です」

男の人は桜の幹をノックするように叩いてみせた。
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