百の魂に幾千の想いを
「…人の話は最後まで聞けと大人に言われませんでしたか」
「は、はい!すみませんっ」
「代償は魂の欠片です。欠片の大きさは願いの大きさに比例しますが」

願いの大きさに比例ということは、欠片ではなく、魂まるごともあるのだろう。

「貴女は願い桜に…私に願いを叶えられる資格がある。あとは望むかどうかだけ。さあ、貴女はどうしますか?」


本来ならば叶わない願い。
それを叶えてくれる。

「本当に孝雄に会えるのですか?」
「貴女が望めば」

願い桜さん(勝手に命名)は、ふあ…と欠伸をすると宙に浮かんだ。

「少年は望んでいませんよ。貴女が少年を殺したと言って、悲しむのを止め、自分を風化させないような行動を望んでいません」
「……」
「まあ、確認したいなら御好きにどーぞ。現世に帰りたいなら、闇をしばらく歩けば帰れますし」

辺りを見渡せば闇。
言われて気付いた。

ここには、唯一この場所…八重桜が異物のように浮かびあがっている。

「…願い桜さん」
「…えーと、それってもしかして私の名?」
「そうです。願い桜さん。私の願い、叶えて下さい」

声が凛と響く。
願い桜さんは音もなく、私の前に降り立つ。

「承りました」

そう言うと、願い桜さんは私の両目を器用に片手で塞いだ。

「……………」

何か唱えている声がする。
しばらくすると目を覆う感覚がなくなった。
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