わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
プロローグ
連なる山の稜線がほのかに光り出し、徐々に出でる日が砂色の城壁を日溜まり色に染めていく。
うっすらと霧が立ち込める街にも日が射し込み、ツンと冷たい空気が徐々に温められる朝。
小さな城の一室に、柔らかな産声が響いた。
「おめでとうございます!王女さまのご誕生でございます!」
王女誕生のニュースは瞬く間に国中に広がり、祝賀と歓喜の声に溢れる。
ゆりかごの中でスヤスヤと眠る王女はとても愛らしい。
夕日の光を集めたような輝く茜色の髪を持ち、透き通るような白い肌にぷっくりと膨らむ唇は薔薇色で、誰もが美しいと称賛する王女は「リリアンヌ」と名付けられた。
その数か月後。
父王に連れられた幼い王子が王女の部屋を訪れた。
「王子、ご覧。リリアンヌ王女だよ」
「はい、父上」
ゆりかごの中で毛布にくるまり眠るリリアンヌを起こさないように、ゆっくり近づいた王子は、もみじの葉のような小さな手にそっと触れた。
「かわいい・・・」
知らずに口をついて出た言葉で自らが驚き、何となく恥ずかしくなった王子は手を引っ込めようとした。
すると、目を覚ましたリリアンヌは王子の指をキュッと握り、なんとも愛らしい笑顔を見せた。
屈託のない笑顔に王子もつられて笑い、部屋の中は和やかな雰囲気で満ちる。
小さな国の小さなお城。
冬の日の午後ことでした。
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