わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!

王女のリオン行きが決まってからというもの、普段静かなミント城はとても騒がしくなった。

人や馬車が慌ただしく出入りし、書類を持った焦り顔の大臣たちが「大変だ」「急がねば」と右往左往している。

何しろ急なこと。

約一ヶ月後の出発までに、王女の旅路用の道具を整えなければならないのだからもう必死だ。

王女の馬車はあるけれど、しっかり点検整備をして長旅に耐えられるように調整しなければならず、城の整備方は腕の見せ所とばかりに張り切っていた。


そんな風に慌ただしいのは外だけでなくリリアンヌ自身も同様で、お作法とリオン王国の常識などを勉強し直している。

うっかり忘れていたこともあって、叱られたりしてへこむけれどおさらいしてよかったと思うのだ。

何故なら、王女の恥はそのままミント王国の恥なのだから。


『リリアンヌさま、プレ嫁入りだとお考えください』


厳しい顔つきの講師に言われた言葉がリリアンヌの頭の中で響く。

粗相をしないようにと考えれば考えるほどに、他国訪問は責任重大なのだと痛感させられる。

王太子は毎回こんな重圧に耐えているのだから、凄いと、改めて尊敬してしまうのだった。

同時に許嫁であるアベルに対しても。訪問だけでこうなのだから、嫁入りすればさらに重圧がかかると容易に想像できる。

頑張らなければと心底思うのだった。


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