わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
部屋に戻り就寝の支度を整えると、メイドたちが挨拶をして下がっていく。
灯りの消えた部屋の窓からは月と星空がよく見え、空はどこも変わりがないものだとぼんやり思う。
リリアンヌはなにげなく下に視線を落とした。
すると、城門の方からいくつかの灯りが近づいてくるのが見えた。
馬なのか、割合速度が速い。
「あれは、もしかしたらアベルさまかしら?」
今視察から戻られたのかしら?と目を凝らしてみるけれど、ほのかな月明かりの下ではよく見えない。
六人くらいの馬に乗った人影が降りると、城側から灯りを持った人が近づいていく。
そして、ランプに照らされたその人を見たリリアンヌの心臓がドクンと跳ねた。
「あれは、まさか。でも、そんな・・・」
忘れもしない少し長めの髪に旅装束。
遠目で頼りない灯りでも、はっきりと誰なのか分かってしまう。
アベルではなく、レイがそこにいる。
彼の姿を目にしただけで、全身の細胞が喜びに溢れるのを感じる。
瞳には涙があふれ、彼の声を聞きたいと願ってしまう。
そばに行きたいと体が要求する。
どうして、今、姿を見てしまったのだろう。
彼は賊討伐隊だ、任務が終われば城に来ることもあるのだろう。
こうして姿を見かけることが多いのかもしれない。
「でも、今だなんて・・・」
忘れなければいけない思いが再び熱を持つ。
リリアンヌはへなへなと力なく床に座り込み、顔を覆った。
はらはらと流れる滴が顎を伝って床を濡らす。
アベルと婚姻を結ぶまでには、彼のことが忘れられるのだろうか・・・。
リリアンヌの眠れぬ夜が、更けていった。