わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
広間を縦断中で、動く度にドレスの裾がもっさもっさと大きく揺れる。
昨日より更にレースが多く、傍目から見ればかなり動き辛そうだ。
あれで、アップテンポな曲のダンスができれば大したものである。
「見て、レミーアさまよ」
「相変わらず素敵なセンスでいらっしゃるわ」
「この日のために、一年かけて準備されると噂に聞きましたわ」
「まあ、それは大変な熱の入れようですわね」
貴族令嬢のグループがレミーア王女の噂話をしている。
主にドレスの豪華さで皆の注目を集めるレミーアだが、リリアンヌは別の意味で皆の興味をひいていた。
夕日の光を集めたように艶めく茜色の髪、白い肌にほんのり赤く染まる頬、ブラウンの瞳を縁取るまつげは長く桃色の唇は愛らしく、オーソドックスなデザインの日溜まり色のドレスが容姿の美しさを引き立てている。
あの女性はどこの誰だろうかと、他国の王太子はもちろん貴公子方も目に留めていた。
一人きりでぽつんと立っており、大広間を見回すその不安げな様子が男性方の庇護欲をそそる。
誰が先に声をかけるかと互いに様子を見合っていた。
そんな中、いち速く動いたのは、紫色の正装を身に纏った見るからに高貴な男性──。
「失礼。話をしても構いませんか?」
「はい?」
どちらさまでしょう?と振り向いたリリアンヌの瞳に、微笑みかける金髪碧眼の見目麗しい男性が映った。