わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
広間中にいる皆が一点に注目し、リリアンヌの近くにいる貴族令嬢たちがため息交じりの声を出す。
が、リリアンヌからは色とりどりのドレスや背の高い貴公子たちが壁となり、王太子の姿はチラリとも見えない。
「アベルさまよ」
「なんて素敵なんでしょう」
「なんだか去年よりも、色気が増してらっしゃるわ」
ほぅっとため息を吐いて赤くなった頬を抑える貴族令嬢をかき分け、リオン王国の王太子に挨拶をせねばと移動する人をかわし、ずんずん前に行くリリアンヌ。
だがその歩みが急に止まり、前方を見つめて固まってしまった。
なぜなら、挨拶をする貴公子たちの間から王太子が見えたから。
その姿を目にした途端身体中に衝撃が走り、リリアンヌの時が止まっていた。
人の動きが遅く見え、ざわめく声も物音も遠くなる。
瞳はただその姿をはっきり捉えて逃さず、レナードが話しかけているがまったく耳に届かない。
紺色の正装に黒髪、それは思い焦がれてしまう人。
レイ―――。
「リリアンヌ王女?王女!?」
至近距離からレナードに何度も呼ばれ、ようやく我にかえったリリアンヌは、深く息を吸い込んで胸を押さえた。
ふらっとよろめく体をレナードが慌てて支える。
「大丈夫かい?」
「はい・・・ありがとうございます」