わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「なるほど。か弱いと思っていたが、とんでもないじゃじゃ馬だな。そんなのをこの腕に抱いて屈服させるのも悪くない。さっさと来い!」
「嫌です!」
ガシッと腕を掴まれてズキンと痛みが走る。
賊に捻られた腕の痛みがぶり返していた。
庭を歩く男女に向けて助けの声を上げようにも、痛みとあのときの恐怖が思い出されてうまく声が出ない。
「は、離して」
何とか声を絞り出したリリアンヌの体が、急にふわりと軽くなった。
違う腕に引き寄せられて頭がぐっと抑えられ、紺色の上着で視界が埋まる。
リリアンヌはこの感覚には覚えがあった。
そう、これは宿場街の夜、あの串焼き屋での腕と同じだ。
それなら、これは・・・?
「嫌がる女性を無理矢理誘うとは、俺の誕生パーティでよくやってくれるものだな、レナード」
「誤解だ。この女性はククルの王太子である俺の手に傷をつけたんだぞ。今からしつけをするところなんだ。アベルには関係ないだろう?」
レナードはリリアンヌが付けた傷を見せ、肩をすくめてみせた。
「悪いがレナード。関係大ありでね、こればかりは見過ごすわけにはいかない。彼女がその傷をつけた経緯には、君にも非があるだろう?」
鳶色の瞳が鋭い光を放ち、レナードを見据える。
そのとんでもない気迫にレナードのどす黒い気がすーっと消え去った。
リリアンヌとアベルの関係には少々疑問が残るものの、争うには相手が悪すぎる。
「ああ、悪かったよ」と言葉を残し、テラスから離れた。