わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「リリ。来るのが遅くなってすまない。平気か?」
心配そうな表情のレイをただ見つめるリリアンヌ。
鳶色の瞳は優しくて、来てくれたことが嬉しくて、安堵できて、言いたいことや聞きたいことがたくさんあるはずなのに、うまく言葉が出てこない。
「・・・どうして?」
リリアンヌが発した、このたった一言にはいろんな疑問が含まれていた。
全部の疑問に答えてほしいと思う。
レイは、頬を伝う涙をそっと指で拭った。
「王太子としては、毎年来られる賓客の機嫌を損なわぬようにせねばならん。リリのことは最初からずっと気にかけていたんだが・・・。レナードが令嬢と広間から消えた後戻ってくるとは思っていなかった。油断していた、すまない」
腕は痛むか?と言って、レイは慎重にリリアンヌの腕を調べる。
一度ならず二度までも他の男に傷をつけられてしまい、レイの胸に抑えきれない感情が生まれる。
馬車の中では仕置きと称して額にキスをしたが、今日はそれ以上のことをしそうになる。
リリアンヌの華奢な体は、すっぽりと逞しい腕の中におさめられた。
「もう二度と怪我をするな。でないと、俺の理性が持たん。何をするか自分でも分からん」
「・・・はい」
きつく抱き締められ、リリアンヌの心臓が壊れそうなほどに脈打つ。
様々な疑問があるけれども、そんなことはどうでもよく思えるくらいに幸せな気持ちになる。