わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「お兄さま!」
リリアンヌは弓をおろして、自分よりもうんと背の高い王太子の首に飛びつくように抱き付いた。
王太子は体当たりする様に飛んできた華奢な体をこともなげに受け止め、しっかりと抱きかかえる。
「リリ、上手くなったな」
「いつから見ていらしたの?」
「最初から。執務から部屋に戻る途中で、外を歩くリリを見つけて追いかけてきた。気が付かなかっただろう」
「はい・・・夜勤の騎士以外は寝てると思っていたもの」
「リリはまだまだ甘いな」
王太子はふわりと笑い、リリをそっと下ろして頭をポンと撫でた。
その大きな手のひらがとても優しくて、リリアンヌの心がほんわり温かくなる。
いつも穏やかだけれどいざというときには的確な判断をする立派な兄は、リリアンヌには自慢であり、大好きだ。
許婚のアベルもこんな風に素敵な人だといいなと思ってしまう。
「今回は急なことで悪かったな。旅は安全に行けるように心を尽くしているから、リリは何も心配せず道中を楽しめばいい」
「はい、ありがとうございます。お兄さま」
「さあ片付けは騎士に任せ、リリはもう部屋に戻りなさい」
王太子がそう言うと同時に、後ろに控えていた騎士がサッと動いて矢場の中に入っていった。
そのことに驚いて王太子を見上げれば、彼はにこりと微笑むだけ。
気配を殺しているとはいえ騎士の存在に気づかなかったとは、やっぱりまだまだ甘いのだなと痛感した瞬間だった。
ほら、と背中を押す王太子に連れられて、リリアンヌは部屋に戻った。