わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
穏やかな笑顔をみせる年配の公爵夫妻との挨拶を終えたときようやく人が切れ、アベルが飲み物を取ってリリアンヌに渡した。
「いいか、リリ。これは葡萄酒だ。まだ慣れてないだろう?ゆっくり飲めよ」
「はい。ありがとうございます」
二人とも今夜初めての飲み物を口にする。
冷たい液体が喉を潤し、一口ごとにリリアンヌの緊張を解いていく。
視線を感じてふとアベルを見上げれば、鳶色の瞳がまっすぐに自分をとらえていた。
その優しい眼差しに胸がきゅんと鳴り、頬に熱が集まるのを感じる。
隠したいけれど、まるで磁石のように視線が引き寄せられてちっとも目がそらせない。
ここ二年の間、ずっと手紙だけのやり取りだった。
前回会ったときよりも男らしさが増しており、正装を着た姿はとても立派で眩しいほどだ。
婚姻の半月前ほどからリオンのお城に来て一緒に過ごしているが、未だに慣れず、目が合うたびに胸が高鳴り顔が熱くなる。
「リリ、頬が赤い。酔ったか?少量でこうなるとは、葡萄酒は合わないか」
アベルの手がふわりと頬に触れ、リリアンヌの胸が痛いくらいに高鳴る。
「違います」
お酒ではなくアベルのせいだと言いかけると、横から「アベルさま!」と甲高い女性の声がしてさえぎられた。