わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「まあまあようやく人が空きましたわ!やっとお声がかけられて、嬉しゅうございます!」
走るようにして近づいてきたのは、顔も体も丸い女性だ。
「マルセル夫人、お久しぶりです。妃のリリアンヌです」
アベルに紹介され、今夜何十回目かの挨拶をするリリアンヌを見て、マルセル夫人は顔をほころばせる。
「まあなんて可愛らしいお方でしょう。今主人は国王さまとお話をしていますの。ほら、あそこに」
ふくよかな手が示すほうには、細身の紳士が国王と向かい合っていた。
マルセル夫人とは正反対の体形をしており、しかめっ面で少し神経質そうにも見える。
マルセル夫人は、主人は国王のところからまったく動こうとせず、しびれを切らしてひとりで挨拶に来たと言って渋い顔をした。
「ところで・・・ねえ、アベルさま?今夜はダンスに誘っていただけませんの?」
すすすとアベルの近くに寄り、マルセル夫人はシナを作って上目遣いにして見る。
「わたくし、アベルさまとダンスをするのがパーティでの最大の楽しみですのよ。毎回このために来ていると言っても過言じゃありませんわ。お妃さまを迎えられて、他の女性には冷たくおなりになったのかしら・・・?」
「いや、マルセル夫人、今日は」
「あの、アベルさま。わたくしはここでお待ちしていますから、どうぞ」
アベルが断ろうとするのを遮り、ダンスをするように勧めるリリアンヌ。
なんとなく、マルセル夫人は機嫌を損ねてはいけない相手のような気がしたのだ。
いわゆる、女の勘である。