わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「アベルさま?」
「俺は、“嫉妬”という感情は持ち合わせていないはずだったんだがな・・・」
アベルは困ったように笑い、リリアンヌを腕の中に閉じ込めた。
嫉妬と聞き、まさか王太子であるアベルが?と驚いたリリアンヌだけれど、直後に胸の中がぽわんと温かくなる。
そして、逞しい胸に頬を預けながら二年前のことを思い出していた。
そう、誕生パーティのあの日、ここでアベルにプロポーズされたのだ。
そして、初めてのキスも体験した。
でもアベルとのキスはあのときの一度だけ。
リオン城に来てからというもの、アベルは毎日のように優しく触れてくるけれど、頬にも額にもキスをしてこない。
どうしてなのだろうか。
「アベルさま。わたくし、こうしてここに一緒にいるのが夢のようです」
「夢、か。リリは、俺の妃になったことが夢に思えるのか?こうして腕に抱いているのに?」
「はい。目覚めたら、ミント王国の自室のベッドの上にいるんじゃないかと、不安になることがあるんです」
ミント王国にいるときに、何度もアベルのそばにいる夢を見た。
そして朝目覚めて現実ではないと知り、哀しくなった。
だから、こうして腕の中にいても、アベルが霧のように消えるんじゃないかと思ってしまうのだ。
「そうか。それなら、このあと“これは夢じゃない”と、しっかり分からせてやる」
「え・・・このあとですか?」
「そうだ。覚悟しておけ。まずは、パーティを終わらせる。それからだ」
「・・・はい」
このあと二人は広間に戻ってラストダンスを披露して挨拶をし、広間を後にした。