わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
鳶色の瞳の青年
出発の日。
早くから目覚めてしまったリリアンヌは、こっそり部屋を抜け出して庭に出た。
まだ夜が明けきらず、見上げれば空には小さな星たちが夜の名残を惜しむかのように小さく瞬いている。
城の壁に日の光りが届き徐々に明るさが増していくと、しんと静まった空気の中、騎士たちの見張り交代の声が響いた。
それを合図にしたかのように、城のキッチンから物音がし始める。
こんな風に国が静から動へと変わりゆく時、リリアンヌは産まれたと聞いた。
そしてそれから間もなくして、リオン王国と許嫁の約束が交わされたという。
リリアンヌは城を見上げた。
高い城壁に囲まれた砂色レンガの壁に赤い屋根のミント城はとてもかわいくて大好きだ。
緑豊かな庭では絶えず小鳥の囀ずりが響き、甘い花の香りが漂う花壇には蝶や蜂が飛ぶ。
ここはいつも穏やかで平和そのものだ。
リオン王国のお城はどうだろうか。
婚姻などまだまだ先だと思っていたけれど、誕生祝いとはいえアベルに会いにいくとなれば、間近に迫っていると実感する。
会えるのが楽しみでもあり不安でもある。
そんな思いを抱えながら庭を歩いていると、城門の方から人の話し声が聞こえてきた。
それがだんだん近づいてくる。
「大変、騎士たちだわ」
見張り交代がすんで、夜勤の騎士が城に戻ってきたのだ。
ネグリジェにショールをまとっただけの姿を見られるわけにはいかない。
リリアンヌは急いで部屋に戻った。