わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
その数時間後、リリアンヌは王女らしからぬシンプルな姿で両親と向き合っていた。
綿で作られた赤い花柄のワンピースを着て、茜色の髪は一つに束ねてリボンを結んだだけの町娘と変わらぬ姿だ。
「では、お父さま、お母さま。いってまいります」
「道中くれぐれも気をつけるのですよ。心細くなったときは、アベルさまのことを思いなさい。きっと勇気づけられるでしょう」
「はい、お母さま。心細いときは、このネックレスを見て勇気をいただきます」
リリアンヌは胸元にある花のチャームを示して、にっこりと微笑んだ。
「それに、お兄さまが選んでくださった、とても心強い伴がいますもの」
「そうでしたね。ああリリ、本当に気をつけて」
ブラウンの瞳を潤ませる王妃がリリアンヌの手を強く握り暫しの別れを惜しんでいる横で、国王と王太子は伴の騎士たちに激励の言葉をかけていた。
旅には選び抜かれた精鋭の騎士六人とメイドはハンナとメリーがついて行く。
持病の腰痛があるカレンはお留守番組で旅に同行できないことを申し訳なく思っており、「私が行ければいいのですが」と、旅の注意事項を出発ギリギリまでハンナたちに伝えていた。
いくら話をしても不安材料はキリがないほど頭に浮かぶ。
何しろお転婆な王女のこと。
予想もつかない行動をすることがあるのだから、相当に気をつけねばならないのだ。