わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「ハンナ、メリー、リリアンヌさまを頼みましたよ。決して目を離すことがないように」
「カレン、どうか心配しないでお任せください。何があっても、この身を呈してお守りいたしますから」
胸をバシッと叩いて決意を伝えるハンナの真剣な表情を見てホッとしたのか、カレンはようやく口を閉じて旅の列から離れた。
「出発!!」
二人の騎士を先導に、茜色の馬車が行く。
ミント王国のリリアンヌ王女、初めての旅の始まりだ。
「リリさま、何かございましたらすぐにお声がけください」
一番旅慣れた騎士マックが王女の馬車のそばにつく。
騎士の中でも王太子が一番に信頼を寄せている彼が、この一行の隊長だ。
王太子に『彼に何でも話せ』とリリアンヌは言われている。
王女が狙われることを避けるため国の紋章は隠して華美な装飾は取り、皆平民の旅装束を身に着け、表向きは商人の一行として旅をする。
それが兄王太子の考えた作戦だ。
荷物は必要最小限にし荷車も小さめで、騎士の剣は馬の鞍の中に隠してある。
勿論リリアンヌ愛用の弓矢も馬車の椅子の下にある。
国王や王太子には「弓矢など持たなくてよろしい」と言われていたが、出番がないことを祈りつつリリアンヌはこっそり忍ばせたのだ。
行程は治安のいい街を通るようにしてあるが、野宿をすることもあるのだ。
騎士たちを信頼しているが、突如獣に襲われることもあるかもしれない。
絶対安全という保証はないし、王女としてメイドたちを守らねばならないのだ。