わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
そんな危険への緊張や不安はあれども、リリアンヌは初めての旅を楽しみにしていた。
車窓から見える外の景色は、家並みが続く街の中から緑多き地帯へと変わっていく。
国境を越えればもうそこは未知の世界だ。
他国にはどんな街があって、どんな人たちが住んでいるのだろうか。
そんなわくわくするような思いを乗せて馬車は走り、二度の休憩をはさみ山を越え、まだ日の高いうちに宿泊地である場所に着いた。
馬車から降り立てば少し平らな地面があるだけで、あとはどこまでも木立が続いている。
森は深く、街はまだまだ遠くだと思えた。
こんなどこの国ともわからない場所だが、ここはもうリオン王国の支配国の一つだというから、かの国はよほどの強国だと思える。
ミント王国も他の国とのつながりがなければ、とっくのとうにリオンの支配下に収まっていたことだろう。
「今夜はここで野営となります。お疲れでしょうが、今暫しご辛抱ください」
マックの指示でテントが張られて野営の準備が進み、ハンナたちは川に水を汲みにいくというのでリリアンヌも水瓶を持った。
「リリさま、私たちがいたしますから」
驚きの声をあげて水瓶を奪い取ろうとするハンナの手を避け、リリアンヌはにっこり笑った。
「今の私は商人の娘なのよ。このくらいしなくちゃ。カレンには内緒よ?」
ハンナたちは顔を見合わせてため息をつき、「では、行きましょう」と川へと斜面を下った。