わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「へっぴり腰とは失礼でしょう!あなたなら獲れると言うのですか?」
「無論だ。ちょっと待ってろ」
手綱を木に結び、青年は川に入った。
あちらは少し深いらしく、青年の太ももあたりまで水がある。
少しの間そこにたたずんで川面を見る青年。
彼がスッと腰をかがめたのが見えた次の瞬間、手には大きな魚が捕らえられていた。
魚を抱えてちゃぷちゃぷと水音を立てながら近づいた青年は、兄王太子と同じくらいの歳のよう。
意志の強そうな鳶色の瞳に、少し長めの黒髪は風に吹かれてさらさらと揺れている。
全体的に清潔感のある姿は、上流の家の者にも見える。
「ほら」
青年は自身が持っていた革袋の中に魚を入れ、リリアンヌに差し出した。
「いただけるのですか?」
「そのために獲ったんだ。受け取れ」
「ありがとうございます」
微笑んで革袋を受け取ると意外に重く、リリアンヌは両手で持った。
隙が生まれたその一瞬のことだった。
すっと近づいた青年の手がリリアンヌの顎に触れた。
そのままクイッと上げ、まじまじと顔を見てフッと笑う。
「ふうん、お前、街娘にしては美しいな」
「何をするのです!いきなり失礼でしょう!」
顎にある手を振り払い、後ずさりをするリリアンヌの足が大きな川石を踏んで滑り、バランスを崩した。
「きゃあっ」
なんとか態勢を戻そうとするも、ビクビクと動く魚入りの革袋は重い上に水流に足を取られてしまう。
もうダメだ!と倒れるのを覚悟して目をつむったリリアンヌの体が、急にふわりと浮いた。
「え?」
ブラウンの瞳に、夕暮れに染まる空と青年の顔が映る。