わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「あ・・・」
「・・・お前、名は?」
「あ・・・あの、お魚をいただいたことと助けていただいたお礼は申し上げます。ですが、あなたに名乗る必要はありません」
「美しいうえに気が強いとは、お前、なかなかのものだな」
青年は下すでもなく、かといって岸に運ぶわけでもなく、ただじっとリリアンヌを見つめている。
視線の先は、茜色の髪、ブラウンの瞳、ぷっくりした唇、そして胸元へと移っていく。
見知らぬ青年に抱きかかえられてることと、観察するように見られることに羞恥を覚え、リリアンヌの頬が赤く染まっていく。
そんな彼女を見て青年はフッと笑った。
その笑顔がなんとも意地悪く見えて、ますます失礼な人だと思う。
「何を考えているのです。下してください」
「リリさま!!大丈夫でございますか!?」
青年は、ハンナたちが裾が濡れるのも気にせずにザバザバと近づいてくる姿を一瞥し、「やっと気づいたか」と呟いて再びリリアンヌに目を戻した。
ハンナたちが立てる水音に交じり数頭分の馬のひづめの音も聞こえてくる。
青年は少し顔をゆがめて舌打ちをした後、リリアンヌの体をハンナたちに託すようにそっと下ろした。
「お前の名はリリ、か。覚えておく。俺はレイだ」
さっと身をひるがえして自身の馬の元に戻ったレイは、呆然とするリリアンヌたちを残し、馬にまたがって風のように去っていった。