わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
ミント王国のじゃじゃ馬王女
うららかな春の日差しが降り注ぐ午後のひととき、ミント王国第二王女リリアンヌはキリリと弓を弾いていた。
シュッと放たれた矢は、二重丸の的を外すことなくストンと命中する。
艶々と輝く豊かな茜色の髪は束ねられ、的を見つめるブラウンの瞳は意志の強さを感じさせ、弓を弾く様はまるで戦いの女神のように美しい。
「ではリリアンヌさま、いきますよ。ご準備をどうぞ」
白い制服を身に纏った騎士団長が、リリアンヌに恭しく矢筒を差し出す。
中には稽古用の矢が二十本入っており、今回の的数はそれだけだと分かる。
「はい、お願いします!」
リリアンヌはそれを受け取り、サッと背負って前に進み出た。
ここはミント王国城の矢場。
この国の第二王女であるリリアンヌは今、騎士たちとともに弓矢の稽古をしている。
さっきまでは動かない的を射ていたけれど、今度は動く標的を射るのだ。
騎士の合図で周りが静まりピンとはりつめた空気が漂い始める。
リリアンヌは深呼吸をひとつして、弓矢を構え目の前の空間に集中した。
こうなると、木々をわたる風の音もさっきまで聞こえていた鳥のさえずりも気にならなくなる。
標的が弧を描いて飛び、それをめがけてひたすら矢をつがえては放つ。
手のひらサイズのそれは、矢が当たると小さな破裂音を鳴らして弾け飛ぶ。
この稽古の時間が好きだ。
この間だけは何も考えずにいられるし、的に当たれば爽快な気分になれるのだ。
「二十中、十八的中です。さすがリリアンヌさま、お見事です!」
「ありがとう。ごくろうさまでした」
リリアンヌは笑顔で敬礼する騎士たちに礼を言って矢場を出、部屋に戻らずにそのまま城の庭へ向かった。