わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「リリさま、どこもお怪我はございませんか?」
「ええ、平気よ。大丈夫。ありがとう」
ハンナたちに体を支えられながら岸に戻ると、メリーがビクンビクンと動く革袋を不思議そうに眺めた。
「リリさま、それは何でございましょう?」
「あ、これは、あの方にいただいたのです」
革袋を開いてみると、手のひら三つ分くらいの大きな魚が入っている。
「こんな大きなお魚を素手で獲られたのですか?今のお方は、何者でしょうか」
「わからないわ。けれど、もう二度とお会いすることはないでしょう」
旅の途中で偶然出会っただけの、少し礼儀知らずな青年。
気にすることはないのだ。
そして、野営地に戻って革袋の中にある魚を見た騎士たちの目が大きく開かれ、いきさつを話したリリアンヌはマックにこってり叱られたのだった。
その夜、リリアンヌはなかなか眠れずにいた。
旅で疲れているはずなのに、一向に眠れない。
テント一枚で囲まれただけの寝室は、風の音も獣の鳴き声も間近に聞こえてなんとも恐ろしい。
弓矢は枕元にあるし、覚悟していたことなのに、いざ目の当たりにすると心細くなる。
「・・・アベルさま、お守りください」
アベルからもらった花のネックレスをぎゅっと握って目をつむった。