わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!

季節は春。

庭師が手入れした花壇には色とりどりの花が咲き乱れ、雑草もなく、低木もすっきり剪定されていてとても気持ちがいい。

瑠璃色の羽を持つ蝶たちが花の間をひらひらと舞うさまは、平和そのものだ。


庭師たちに御苦労さまと声をかけつつ花壇を通り抜ければ城の横に出る。

ここには城で一番大きな木があり、稽古のあとはこれに登るのが子どもの頃からの習慣だ。

城からは死角になり普段はほとんど誰も来ず、唯一一人になれる場所。


稽古用のドレスの裾をたくし上げて縛り、手掛かりも足掛かりも慣れたもので、するすると楽に登っていく。

少し太めの枝に腰かければ、はるか向こうの方まで見渡せる。


ミント王国の街並みは美しい。

国の回りには緑豊かな山々が連なり、平地の中心部にはベージュ色の壁に赤い屋根の統一された家並みが広がっている。

街のほぼ真ん中を流れる川はきらきらと輝き、山肌近くには青々とした畑が広がっている。

勿論部屋からも城下を見ることができるけれど、風の匂いを感じて鳥たちの声を聴きながら過ごせるここは、開放感があるためリリアンヌのお気に入りなのだ。


そしてもうひとつ、お気に入りなのがある。


「まあ、早速集まってきたわね。おいで」


綺麗な囀りを響かせながら飛んできて、ふわりとリリアンヌの膝の上にのる小さな子たち。

彼女がここに来るといつも小鳥たちが寄ってくるのだ。

せがむように小首をかしげて見上げる様がとてもかわいくて大好きだ。

彼らの目当ては、ドレスのポケットに忍ばせてあるパンの欠片。


「ほら、たくさんお食べ」


太い幹の上に欠片をばらまくと、先を争うようにしておいしそうについばむ。

そのうちの一羽が大きな欠片を加えてふわっと飛び立ち、その行方を追うと枝の先にとまった。

よく見ると巣ができていて、親鳥が卵を温めている。


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