わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「ミント王国、卸商の御一行様ですね。はい、事前予約いただいています。お部屋は五つで、二階でございます」
初老の宿の主人は「いらっしゃいませー」とリリアンヌたちに愛想をふりまく。
泊まるのは、三階建ての細長いお宿。
二階の部屋はミント王国一行で埋まり、ほかの宿泊客は入ってこない。
リリアンヌは一番奥の部屋になり、その隣にハンナたち、騎士たちは階段側の三つの部屋を使用する。
「リリさま、この街は治安がいいとはいえ、様々な民族が行き交う異国の地でございます。万が一のため、お部屋の前には騎士が交代で立ちます。ご安心ください」
「いいえ、マック。ここには、誰も侵入してこないわ。それに騎士たちも疲れているでしょう?立ち番は必要ありませんから、お部屋でゆっくり休みなさい」
「いいえ、リリさま。そういうわけにはまいりません。国王さまにも王太子さまにもそうするようにと、きつく命じられております」
マックは「きつく」の部分を強調して言い、リリアンヌの命令をすっぱり退けた。
山であったような目にはもう二度と合わせないと、厳重な警戒をするといって気迫満点な表情をする。
「外出など、用事がありましたら必ず我らにお声がけください」
着替えの入った籠を部屋の中へ運び入れ、マックたちは部屋から出て行った。