わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
その足音が遠ざかるのを聞きながら、リリアンヌは部屋を見回した。
城とは比べ物にならないほどに小さな部屋で、元はクリーム色だったであろう壁は年月による汚れで茶色っぽく変色している。
人が一人横たわればいっぱいになるほどに小さなベッドが二つ並び、四角い台に楕円の鏡がついただけのドレッサーがある。
窓にかかるカーテンは、少しほころびができていた。
高級宿とはとても言えないけれど、テントの寝袋よりは数倍にくつろげる。
ガタガタと音のする窓を開けてみると、隣の建物の壁がごく近くにあり、うんと手を伸ばせば届きそうなくらいに間が狭く見える。
下は一応小道になっており、身を乗り出して左右を確認すれば、騎士の部屋側に人が行き交う道が見えた。
どうやらあちら側が商店のある通りのようだ。
こちら側にも馬車置き場の向こうに道があるが、裏通りのようで人の行き来が少ない。
部屋の外の探訪を終えて窓を閉めると、ドアがノックされた。
「リリさま、失礼いたします」
ハンナたちが籠の中にある着替えなどを外に出し、てきぱきと身の回りの品を整える。
その後リリアンヌの言葉を待つように並んで立った。
巾着袋を手に提げてにこにこと笑う二人は外出する気満々のようで、リリアンヌはクスッと笑いをこぼした。
「じゃあ出かけましょうか」
「はい!リリさま!」