わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!


男性客の中に交じり、女性三人がきゃあきゃあと嬉しそうに革細工を選ぶ。

メリーは散々迷った挙句、お財布にも優しく旅の間にも邪魔にならないような腰に着ける小物入れを買った。

あとは、これをトーマスに渡すだけだ。

その後馬車の中からチェックしていたいくつかの店を回ると、すっかり日が暮れていた。


「リリさま、もうそろそろ戻りましょう」


空は雲が多く月が隠れがちで、店から漏れる明かりを頼りに宿に戻る。

待っていた騎士たちとともに夕食を済ませ、入浴して夜の挨拶にきたハンナたちに「おやすみ」を言うとようやく一人になった。

リリアンヌはこの時がくるのを待っていた。


「そろそろいいかしら」


そっとドアに近づき、耳を澄ませて外で物音がしないことを確認する。

立ち番の騎士は、呼びかけない限り部屋の中には入ってこない。

リリアンヌはワンピースに着替え、籠を開けた。

二重底にしてある底板を外せば、細い紐が出現する。

これは愛用の城出用の道具で、こっそり城下に出かけるときは、城壁近くにある木に結わえて越えるのだ。


「内緒で忍ばせておいてよかったわ」


あれもこれも駄目と禁じられては、異国の文化を肌で感じることなどできない。

せっかくの数少ない機会なのだ、いろいろ見てまわりたい。

宿から下りるだけならば、木のぼりする必要がなく楽なもの。

リリアンヌは、ベッドの足にしっかりと紐を結び窓の外に垂らした。


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