わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
左右と下を見て誰もいないことを確認し、そろりそろりと下りていく。
地面に足が着くと、騎士たちの泊まる部屋の窓をちらっと見、にっこり笑った。
「まずは、あの屋台を捜さなくちゃ」
少しのスリルとたっぷりの期待に胸を膨らませ、足取りも軽く商店の通りへ向かった。
丁度その同じころ。
商店の一角にある『警備隊』の建物の中では、道沿いにある部屋で青年が書き物をしていた。
飴色のテーブルに置かれたランプの灯りに照らされる髪は黒く、意志の強そうな目は程よい長さのまつ毛に縁取られている。
形よく凛々しい眉が歪み、深いため息が吐かれた。
青年は持っていた羽ペンを置いて腕を組み、天井を仰ぐ。
「奴らの手掛かりはなし、か」
呟くように言ったのを受けて、同様に書き物をしている金髪の青年が手を止めて顔を上げた。
ずれた眼鏡をなおして、スッと首を傾げる。
「それならば、この辺りにはないと考えた方がよろしいのでは?」
「いや、アジトは近くにあるはずだ。少なくとも、奴らの情報源はここらにある」
青年はテーブルの上にある書類を隅に避け、一枚の地図を広げて真ん中あたりの平地を指さした。
「警備隊長、見ろ。ここが、ローザの宿場街だ。で、事件報告のあった地を記したのがこの赤い点だ」
警備隊長が眼鏡の蔓をクイッとあげ、「これは・・・」と呟いて地図に見入る。