わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
青年が警備小屋から出たそのころ。
リリアンヌは、ここはなんて素敵な街なのでしょう!と、ブラウンの瞳をキラキラと輝かせていた。
これは夜遅く到着する旅人のためだろうか、九の時刻はとっくに過ぎているのに宿場街の商店は開いているところが多い。
この時刻ミント王国ではお酒と食事を提供するお店が開いてるくらいで、雑貨店も洋品店も日暮れとともに閉まってしまうのだ。
それにハンナたちと来た時よりも人通りが少なく、ゆっくりお店を見て回れる。
しかし、一番の目的だったお菓子の屋台は既に閉まっていた。
「・・・食べたかったわ」
食べられないと思うと余計に食べたくなる。
手のひらサイズの丸いお菓子。食べていた女性たちの嬉しそうな表情が忘れられない。
きっとすごく美味しいに違いないのだ。
木戸の閉まった屋台の前で、この世の終わりがきたようにショックを受けていると、香ばしい匂いが漂ってきた。
そのふわふわと誘うように匂ってくる元を捜して歩くと、店二件先に屋台があるのを見つけた。
売っているものはお菓子ではなさそうだが、まわりで過ごしているお客はみんな陽気に笑っており、とても楽しそうだ。
遠目から判断すると店主は中年の男性で、お客も男性が主だ。
お菓子の屋台とは雰囲気がまるで違う。
リリアンヌは労働者のようなガタイのいい男性たちの視線を感じつつも屋台に近づき、店主ににっこりと笑いかけた。