わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!

国民にも尊敬されていて、勿論リリアンヌも尊敬している。

遠く及ばないまでも、そんな風になりたいと思うのだ。

そんなことを考えながらスイーツを黙々と食べていると、レイがくすっと笑った。


「今はやけに素直だな?」

「え?」

「もっと反論してくるかと思ったぞ」

「・・・わたくしだって、反抗してばかりではありません」


リリアンヌは、ふと、レイの中で自分はどんな風にみられているのだろうかと気になった。

もしや、とんでもない性悪だと思われているのだろうか。

何度も偶然に会い、そして助けられてばかりだ。

そういえばいつも風のように消えてしまい、きちんとお礼を言ったことがない。


「あの、何度も助けていただきありがとうございます。お礼をしたいのですが、生憎旅先で何も用意ができなくて、その・・・」

「お礼をすると言うのか。そうだな・・・じゃあ食事だけでなく、もう少し付き合ってもらおうか。それでいい。俺は、リリの時間がほしい」


テーブル越しに見つめてくる鳶色の瞳は真剣で、リリアンヌの胸がトクンと鳴った。


「今日中には、宿に帰す」


レイの提案に承諾し、飲食店を後にして宿場街をそぞろ歩く。

お店はもうほとんどが閉まっており、道を照らすランプも消え、ほのかな月明りだけを頼りにする。

リリアンヌの小さな手を握るレイの手はとても温かく、何も話すことなくただ一緒に歩いているだけなのに、退屈とも気まずいとも思わず胸がぽわんと暖かい。

リリアンヌにはそれが不思議に思えた。

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