わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
的は一個ずつ出て円を描くように一周動き、速度も様々だと店員が言う。
リリアンヌは、渡された弓に矢をつがえ前方の空間に集中した。
周りの客の声が遠ざかり、標的しか見えない。
ふわっと飛び出した白い楕円の的が円を描くようにするすると動く。
一定の軌道があるようで、城の矢場で飛ぶ標的を射るよりも断然楽だ。
リリアンヌを包む空気が一変し、客たちがシンと静まる。
シュッと放った矢が的に命中すると、一拍おいて拍手と歓声が沸き上がった。
「すごいじゃねーか!」
「だが、まぐれ当たりだぜ!」
「次もがんばれよー!」
ピューッと口笛が吹かれてやんややんやと声がかけられるが、リリアンヌの集中力は途切れない。
次々と的に当てるリリアンヌを見る客たちの表情が次第に変わっていき、矢をつがえて構える姿の美しさに見惚れるとともに、好奇から応援する気持ちに変わっていた。
「すげーよ。女の子が的に当ててるってさ!」
「うそだろ、今まで誰も制覇してないんだぜ」
だんだん人が増え、八射目を狙う頃には店中の客の視線を集め、皆が矢を射る様子を固唾をのんで見守る。
とうとう十射目を命中させ、弓を下して深い息を吐いたリリアンヌのもとに客たちが押し寄せた。
「お嬢さん、何者だい!?」
「俺に弓矢を教えてくれよ!」
「いやー、いいもん見せてもらったぜ!ほら!約束の千ペクスだ!」
リリアンヌを囲むようにずらりと並ぶ千ペクス紙幣を見て、本当に受け取ってもいいのかと戸惑ってしまう。