わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「あ・・・」
「リリ、受け取っておけ。そのほうが収まる」
レイに耳打ちされ、リリアンヌは手では持ちきれないほどの紙幣を抱えるようにした。
どんなに気を付けて持っても、何枚かがひらひらと落ちてしまう。
見かねた店員が紙袋を出してきてくれ、ありがたくそれに入れた。
「お嬢さん、旅行者かい?」
初老の男性が話しかけてきて、くしゃっと笑う。
「ええ、そうなんです。明日には街を出るんんです」
「じゃあナザルの山を越えるのかい?」
「はい。そう聞いてます」
「そうかい、気を付けて行くといいよ」
初老の男性もリリアンヌに千ペクスを渡し、ぺこっと頭を下げて去っていった。
「リリ、そろそろ出るぞ」
スッと手を握られたリリアンヌは素直に従い、遊技場から出た。
道を歩きながら、お金をどうしようかと悩む。
かさばる紙幣をどうやって隠したらいいのだろうか。
「そうだわ。レイ、受け取ってください」
「それはリリが稼いだお金だ。持っておけ。紐を隠したところに入れればいいだろう」
どうして紐を隠してきたことが分かるのか、そんなことを疑問に思いながらゆっくり歩いていると、いつの間にか宿の前に来ていた。
「もうさよならの時間だ」
そう言いながらリリアンヌの頬に触れるレイの瞳は少し潤んで見える。
「今日は楽しかったぞ。まさか、全部の的を射るとは思ってなかったからな。傑作だ」
「弓矢は得意なんです」
「そうか、勇ましいな。・・・ほら、もう部屋に戻れ」
頬に触れていた手が離れ、リリアンヌは名残惜しく感じながらも、早く行けと促されて部屋まで登った。
「おやすみ。また会おう」
レイがひらりと手を振って去っていく。
その背中に「おやすみなさい」と声をかけ、姿が見えなくなるまで見つめ続けた。