わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
ナザルの山

宿場街商店通り東の角にある店には、赤と青のランプがぐるりと外壁を飾る。

それは東の空がほんのり明るくなる頃、役目を終えて一つずつ消されていく。

昨夜リリアンヌがレイと共に来た遊技場。

今が、夜通し人に娯楽を提供し続けた店の閉店時間だ。


「ご苦労さん」


初老の男性がランプを消して回る店員に声をかけ、店を後にする。

男性は東の山を眺め、目をすぅっと細めた。

薄く立ち込める雲が太陽を隠し、宿場街の空には黒い雲が多い。


「一雨きそうだな。予定が狂わなければいいが」


少し苛立ちを含んだ声で独りごちると、店員も同じ様に空を見上げた。


「予定通りいけば却って好都合では?」

「まあ、そうかもしれん。あとはよろしくな」


初老の男性はくしゃっと笑い、通りを西に歩いていく。

西の角にある広場では、毎日朝市が開かれる。

そこに、今日も荷車を引いた人が集まり始めていた。

雨が降ると商品が台無しになるということでテント張りをし、挨拶や指示など互いに掛け合う声は賑やかに着々と準備がされる。

一日中賑わいをみせるローザの宿場街、朝と夜との交代だ。


その朝市と遊技場の間、ちょうど真ん中辺りにミント王国一行が泊まる宿がある。

その宿のベッドで目覚めたリリアンヌは、ぼんやりと天井を見ていた。


< 49 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop