わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!

メリーがトーマスのことを心配し、ハンナが雨音が恐ろしいと言って怯えはじめる。

リリアンヌもこんなに雨が激しい中を馬車で移動するのは初めてで、メイドたちを励ましながら恐怖心を押し殺した。

このまま強行に進むのかと思われたが、次第に馬車の速度が緩み始め、やがてゆっくりと停まった。


「リリさま、先導のトーマスが洞窟を見つけました。少し緩むまで雨宿りをいたします」


停まったのは、ナザルの山の入り口付近。

木々の奥にある崖にぽっかりと穴が開いており、馬車は入っていくことができないが馬と人は十分に休める広さがある。

馬車と荷車は大きな木の下に寄せて雨を避け、リリアンヌたちは木の葉の陰に隠れて雨をよけながら洞窟に移動した。

騎士たちは雨具を脱いで雨粒を払い、濡れた馬の体を布で拭いたりしている。

メイドたちはリリアンヌの濡れた髪と体を拭いた後、洞窟の中にあった大きめの石に座るのを勧め、自らの体も拭いて一息ついた。

雨は変わらずに激しく降っているが、木の葉に当たる雨音と滴る水音が交じり、不思議なことに聞いているとだんだん穏やかな気持ちになってくる。

馬車の中で感じた恐ろしさが解け、耳にする環境でこうも違うのかと感心する。

リリアンヌが自然の音に癒されながら洞窟の外を眺める横で、メリーは馬の世話をするトーマスをじっと見つめていた。

手にした布をぎゅっと握りしめ、一歩踏み出そうとしては止めるを繰り返している。

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