わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
思いあたることが、あれこれたくさんありすぎて皆目見当がつかない。
叱られることを覚悟で、リリアンヌは謁見の間の扉を開けた。
「お父さま、お呼びと伺い参りました」
玉座に座る国王の隣には王妃もいる。
二人でニコニコ笑ってリリアンヌを見る様子は穏やかで、とても叱る雰囲気ではない。
「リリ、突然ですまんが、王太子の代わりにリオン王国に行ってくれんか」
「え?わたくしがですか?」
どうして?と驚くリリアンヌに、国王は一枚の書状を広げて見せた。
鮮やかな水色が美しい紙に、招待の文面とリオン王国の紋章と国王のサインが書かれている。
「この通り、リオンの王太子であるアベルさまの二十三歳の誕生パーティの招待をいただいたんだ。しかしその日は王太子の都合が悪く、丁度隣国への訪問日と重なっている。私が行ってもいいのだが、アベルさまは喜ばないだろう。だからここはひとつ、そなたに行ってもらおうと王妃と相談して決めたのだ」
そう国王が言うと王妃が柔らかく微笑んで頷き、リリアンヌに一つの箱を差し出した。
リリアンヌが受け取り開くと、花を象った宝石のチャームが入っていた。
取り出してみるとそれはネックレスで、光りに当たると薄桃色にキラリと光る。
「・・・素敵。これはお母さまが?」
「いいえ。それは、アベルさまからの贈り物です」
「アベルさまが?うれしい」
「リリももう十七歳になったでしょう。二人は許婚の間柄ですし、十九歳には嫁入りするお約束です」
「はい。アベルさまが二十五歳になられたら婚姻を結ぶ、とお聞きしています」