わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
その挙動不審な様子に気づいたハンナはにっこり笑いながら「いってらっしゃいな」とメリーに耳打ちし、トンと背中を押した。
押されて一歩踏み出して振り返ったメリーに、ハンナは胸の辺りで拳をぐっと握ってみせる。
「印象付ける大チャンス!勇気を出して!」
小声だけれど強い調子で言ったハンナは、まだ迷ってる風のメリーにほらほら行ってと大きくうなずいてみせる。
メリーは大きく息を吸って唇をぐっと結び、ゆっくりトーマスの元へ向かった。
その表情は緊張感たっぷりで、真剣そのものだ。
「リリさま、リリさま!」
ぼんやりと洞窟の外を見ていたリリアンヌが呼ばれて振り向くと、ハンナが嬉しそう笑ってメリーを指さした。
「ほら、メリーが行きましたわ!」
「え?」
何のことかわからないまま指さす方を見るリリアンヌの目に、トーマスに近づくメリーの姿が映った。
それに他の騎士たちも静かにメリーのことを見ている。
馬の世話をするトーマスの後ろに立ったメリーは、おずおずといった感じで声をかけた。
「あ、あの、トーマスさま」
「なに?」
振り向いたトーマスは、真っ赤な顔のメリーを見てふわっと微笑む。
若いメイドたちの噂に上る騎士一番の甘い笑顔で、メリーの胸のドキドキが最高点に達した。
「あ、あのっ。こ、これっ、これも使ってください!」
震える声で差し出された布を一瞬驚いた様子で見たトーマスだけれど、にこっと笑って布を取った。
「これで、俺の体を拭いてもいい?」
「はい・・・どうぞ」