わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
雨で足止めをされたのを挽回するように、道を急ぐ馬車の中。
泥を踏む音はするけれども雨音はとても静かになり、いつも通りにメイドたちのお喋りに花が咲く。
話題は洞窟での出来事を引きずった恋話。
只今ハンナは、トーマスがいかにモテる騎士であるか、メイドのネットワークで仕入れた情報を披露中だ。
その多くを知らないメリーは「参考になります」と言って真剣な様子で耳を傾け、リリアンヌは情報網の凄さにひたすら感心している。
「・・・というわけで、メリーにはライバルがとても多いのですわ!是非、リリさまも応援してあげてください!!」
ハンナはぐっと拳を握って熱弁を締めくくった。
その勢いに押されて返事をしそうになるリリアンヌだけれど、ちょっと待って?と思う。
話を聞いていると、どうもトーマスは外見的なことで人気があるようだ。
もしやメリーもそこだけを見て頬を染めているんだろうか?
「ひとつ聞いてもいいかしら。メリーは、トーマスのどんなところが良いの?」
リリアンヌが問うと、メリーはきちんと座り直して姿勢を正した。
「はい。私は、トーマスさまの優しさに惹かれています。さっきも、自分よりも馬の世話を優先していらして。他の騎士さまは真っ先にご自分を拭いておられましたが、あの方は違いました。いつまでも濡れたままでいらして、風邪をひかないかと心配になるほどに・・・私それで、布を、あの方に・・・」